生態系機能を考慮した森林管理

北海道大学演習林は1901年の設立から100年間で580万m3以上の木材を伐採して きました。その中のひとつ旧苫小牧演習林でも、特に1950年代後半、洞爺丸台風による風倒木処理で大量の木材を伐採しました。この台風による風倒は全面 積の半分に及びましたが、さらにその半分の風倒跡地がカラマツやトドマツなど針葉樹の人工造林地に置き換えられました。しかしそのうちの少なくない部分が 病虫気象害によって不成績造林地となったことから、このような場所を再び天然林に誘導する試みも行われています。また東側の半分の区域は、都市林施業区と して8年に一度保育伐採を行うという景観を重視する考えのもとに管理が行われ、2000年まで年間約500-1000m3の伐採を行ってきました。このようにごく最近まで苫小牧研究林の森林管理は若い二次林と人工造林の保育にその中心が置かれていました。

都市林施業区での森林管理もふた廻り目を終了し当初の目的がほぼ達成された現在、我々は考え方を転換し、樹木の伐採を生態系の操作実験やサンプリングとし て位置づけます。たとえば以下のようなものが挙げられます。伐採によって生産者である樹木の種数と密度をコントロールし、植食性昆虫とその寄生者の食物網 動態を明らかにすることによって生物多様性に与えるボトムアップ効果を検証すること。伐採と施肥を組み合わせて処理することにより、系全体の物質循環過程 や樹木の生産性だけでなく、林床植物の器官配分や様々な種の組み合わせのリター分解がどのように変化するか。伐採によって樹木のサイズ構造を改変したと き、各個体はどのような成長の軌跡を描き、全体の生産性にどう影響するか、などです。

もちろん全ての人工造林地の保育や主伐はまだ終了していませんから、これを中心とした林分から毎年100-200m3程度の収穫も行い、これを売り払います。しかし我々の樹木の伐採は収益を得ることが目的ではなく、あくまでフィールドステーションの理念のもとで操作実験の手段として用い、教育・研究に資することを目的とします。